とりのうた

listening and writing the song of the "bird"

第3章 君の好きだった歌(4)

  ASKAは、アルバム「CodeName1. Brother Sun」のリリースに合わせて行われた月刊カドカワ‘95年8月号のインタビューで、この「Brother Sun Sister Moon」という映画について、こんなふうに語っている。


  「『Brother Sun Sister Moon』っていう‘72年に作られたイタリア映画がヒントになったんだ。僕もずいぶん昔に観たのね。わりと宗教的な要素の濃い映画なんだけど、僕は内容というよりも映像に魅かれたんだ。内容的には、すごく当たり前のことを言っているんだけどね。つまり、世の中を醜くしているのは人の欲なんだ…みたいなテーマで。最近になって改めてこの映画を観直してみて、やっぱり内容もすごく心に残っていたんだなって気づいたんだけど。当時は、とにかくなんて綺麗な映像なんだっていう印象が強くて。豪商の家に生まれた主人公が、とにかく欲を捨てて生きていきたいと決意するんですよ。それで、みんなが集まっている場所で服を脱ぎ捨てて裸になって「僕は裸のまま、飾りのない人間として生きていきたい」みたいなことを言って、ひとつの門をくぐるのね。その時、門の向こうにワーッと光が上がってきて。その光に向かって主人公が両手を思いっきり広げている姿を、カメラが背中越しにとらえてね。それがとにかく綺麗で。ここぞという瞬間の光がね、もう強烈な印象でさ。それでコンサートの演出なんかでも、あの場面を何とか再現できないだろうかって考えたりして。これまでも、いろんな場面で使ってきているのね。そういう、僕にとっては非常に重要な映画だったわけですけれど。それを今なぜタイトルに…と聞かれると、困ってしまう。それは本当に、フッと瞬間でひらめいたものだったから。」

 

  「CodeName1. Brother Sun」がリリースされた1995年は、CHAGE&ASKAが文字通り世界に羽ばたく画期的なときを迎えていた。前年の1994年にThe World Music Awardsを3年連続で受賞し、初のアジアツアーを大成功におさめるなど、日本という埒を越え、遥かな大舞台に挑戦するCHAGE&ASKAの姿がそこにはあった。

  CHAGE&ASKAのこのときの跳躍は、あの素っ裸で無限に広がる平原に差し向かい両手を広げBrother Sunの光に照らされるフランチェスコの姿に重なる。ASKAはこのインタビューに、フランチェスコのこの宗教的な回心という内容面に対する強烈なインパクトへの直接的な言及を巧みに回避している。それでも、というよりむしろだからこそ、この「強烈な印象」をアルバムタイトルに据えるという大胆な形で表現しなければならないほどに、この印象が当時のASKAに与えた、ちょっとしたインタビューなどではとても筆舌し尽せぬ内発的な強度の凄まじさを感じずにはいられない。