とりのうた

listening and writing the song of the "bird"

第1章 SAY YES (5)

僕の“かの女”への信心の篤さが届いたのか、あの公園での儀式から約8ヶ月後、初夏の香りが漂い始めた1992年5月、“かの女”は僕の「付き合って。」というガラスケースを受け取ることになった。僕と“かの女”は、交際をすることになった。僕の願いは成就した。「理想」が「現実」となったのである。しかし、現実化した理想は、「あの理想」では決してなかった。電話をしても、デートをしても、話すことは何もない。現実化した理想は実に空疎だった。「虚構」。まさに、「虚構」だった。成就までの「あの理想」と、成就からの「この現実」の分裂。「現実」が「虚構」化する、まさにその瞬間に僕は立ち会っていた。この交際の「虚構」らしさに、“かの女”もまた気づいていたようだ。わずか1ヶ月後の1992年6月、僕たちの「虚構」は取り壊されることになった。

 

 

ASKAは、CHAGE&ASKAとして「SAY YES」の前に発売されたシングル曲「太陽と埃の中で」でこのように歌う。

 

追いかけて 追いかけても つかめないものばかりさ

愛して 愛しても 近づくほど見えない

 

「理想」に動機づけられて成就を迎えた「現実」が「虚構」化することを、この歌は看破している。太陽に燦燦と照らされた「理想」を「追いかけても」、「近づくほど」に「現実」は埃の中へと「見えな」くなっていく。そうなのだとすれば、「YES」というその声は、一体何を肯定しているというのだろうか。