とりのうた

listening and writing the song of the "bird"

第3章 君の好きだった歌(6)

ASKAはSAY YESの大ヒットの直後、1992年のCONCERT TOUR 1992 “BIG TREE”のステージの上で、次のような一節を含む「道標」という散文詩を披露している。 道標は はじめからあった気がします例えば 大きな風が風車を回すのではなく小さな風車に生まれた風が遠…

第3章 君の好きだった歌(5)

フランチェスコが目指したこと。それはキリストの反復である。キリストのように一切の所有や形骸から解き放たれ、生身の人間として再生することこそ、フランチェスコの回心という出来事である。キリスト教が普遍宗教としてヨーロッパという埒を越える上で、…

第3章 君の好きだった歌(4)

ASKAは、アルバム「CodeName1. Brother Sun」のリリースに合わせて行われた月刊カドカワ‘95年8月号のインタビューで、この「Brother Sun Sister Moon」という映画について、こんなふうに語っている。 「『Brother Sun Sister Moon』っていう‘72年に作られた…

第3章 君の好きだった歌(3)

根源的偶有性に心が開かれてしまった者にとって、この世界のあらゆる構造物は、虚構に過ぎないと映るだろう。なぜなら、その構造物には必然性など実はなく、ただたまたまそうなっているだけであることに、虚しくも気づいてしまったのだから。そして何より、…

第3章 君の好きだった歌(2)

イタリア、ウンブリア平原。アペニン山脈に穿たれた穴。鳥が歌い、花が踊り、蝶が舞う穏やかな丘陵地帯だ。13世紀初頭、この地に立ち上がった「愛」がある。アッシジのフランチェスコ。現在に至るまで連綿と続くカトリック教会。その屋台骨を支える重要な修…

第3章 君の好きだった歌(1)

君が残した brother sun and sister moonyour man said, too young to love. そいつが旅立ってからも、僕と“かの女”との関係は続いた。「結婚」というキーワードが若い二人の間を幾度も飛び交った。でも、僕には全くリアリティがなかった。もちろん初めから…

第2章 YAH YAH YAH(4)

「2」を「2」のままに、「チャゲ」と「飛鳥」の差異をその差異のままに、不安定性や流動性に曝し続けるブリコラージュ的な名称「チャゲ&飛鳥」の中に、僕たちは神話的な「1」の訪れを目撃する。それはまさに、「「虚」のノエシス」の到来である。「チャゲ…

第2章 YAH YAH YAH(3)

近代においては、国家にせよ、社会にせよ、エンジニアリングの手捌きで、「歴史」を遡ってその正統性を事後的に周到にデザインする。その際、差異を統一的な名称に収める命名という操作は極めて重要な役割を果たしている。統一名の構成という操作は、ブリコ…

第2章 YAH YAH YAH(2)

この神話的な思考と歴史的な思考との差異。ドラマ「振り返れば奴がいる」の中で、石川の死を目前にしたこの若き医師2人を抱き締め、その差異を蕩かした大いなる「1」とは、神話的な「1」ではなかったか。一方が、亡き者に「なる」というそのときを迎えた…

第2章 YAH YAH YAH(1)

必ず手に入れたいものは 誰にも知られたくない百ある甘そうな話なら 一度は触れてみたいさ勇気だ愛だと騒ぎ立てずに その気になればいい 掴んだ拳を使えずに 言葉を失くしてないかい傷つけられたら牙をむけ 自分を失くさぬために今から一緒に これから一緒に…

第1章 SAY YES (5)

僕の“かの女”への信心の篤さが届いたのか、あの公園での儀式から約8ヶ月後、初夏の香りが漂い始めた1992年5月、“かの女”は僕の「付き合って。」というガラスケースを受け取ることになった。僕と“かの女”は、交際をすることになった。僕の願いは成就した。「…

第1章 SAY YES (4)

こうした社会学的な主題は、次のように言い換えることもできる。この「101回目のプロポーズ」というドラマの大ヒットは、1991年当時の人々の中の生成変化するものが、「虚構」というパターン(過去)にアイロニカルに締め出され続けることが常態化した「虚構…

第1章 SAY YES (3)

ドラマがドラマとして成立するには言うまでもなく3つの時間的要素が必要である。「過去」、「現在」、そして「未来」。また、生成変化するものを「過去」へと締め出そうとする運動と、生成変化するものを「過去」から取り戻そうとする運動との闘いの場こそ、…

第1章 SAY YES (2)

建設会社の万年係長である星野達郎は99回のお見合いにことごとく失敗し続けてきた。達郎は深く傷ついていた。見た目も悪い、仕事も冴えない自分自身を卑下していた。それ以上に達郎を苦しめていたのはおそらく自身の誠実さという仮面をつけた臆病さなのだろ…

第1章 SAY YES (1)

愛には愛で感じ合おうよ ガラスケースに並ばないように 何度も言うよ 残さず言うよ 君が溢れてる 津波と漣を隔てる差異は、岸辺に打ち寄せる海水の量の差異だけではない。言うまでもなく、それは質的な差異でもある。憎しみと愛を隔てる差異もまた、しかり。…

はじめに

そのとき、僕は確かに2つに分裂した。僕の心の中の、「あのASKA」と「このASKA」とが。いや、もっと直截的に言ってしまえば、こう言ってもいい。「あの僕」と「この僕」との分裂であった、とも。 そのとき、警察車両の後部座席で、幾重にも重なるガラスケー…