とりのうた

listening and writing the song of the "bird"

第3章 君の好きだった歌(1)

君が残した brother sun and sister moon
your man said, too young to love.


  そいつが旅立ってからも、僕と“かの女”との関係は続いた。「結婚」というキーワードが若い二人の間を幾度も飛び交った。でも、僕には全くリアリティがなかった。もちろん初めからそうだったわけではない。内から湧き起こる強度がまるで必然のように「結婚」という言葉を噴出させてくることのほうが初めはむしろ多かっただろう。しかし、その当時僕たちはまだ高校生。融通無碍な強度の在り方に本来もっと素直なはずの年代を僕たちは生きていた。僕たちは、僕たちの関係に縛りつけられたまま、あまりに永いときが経過しすぎた。その永い月日の中で、僕の中の融通無碍な強度としての「愛」が「結婚」という言葉に押し込められるたびに、少しずつ少しずつ高揚感よりも虚無感が心を覆い尽くす時間が多くなっていった。またその虚無感を自分の心に認めるたびに、無理やりに「愛」を装って高揚感を演出して見せるのだった。高揚感と虚無感の寄せては返す波間に僕はただ身を委ねるしかなかった。


  融通無碍な強度を、僕も“かの女”もお互いに何か頑ななまでに、僕と“かの女”という二人の男女の結びつきなる「形式」に拘束し続けていたのは、きっとそいつとの無意識の対話が影響していたのだろう、と今になって強く感じる。そいつはあのとき普通の意味でのコミュニケーションが絶対的に不可能な「他者」としての「死者」となった。僕の心にはひとりでに「そいつの分まで“かの女”を愛し続ける」という誓いのようなものが育っていった。“かの女”への裏切りはそいつへの裏切りである。死者の魂への冒涜である。僕の心は、僕自身にそんな掟を知らず知らずのうちに課していた。この死者との対話へと通じる“かの女”との関係こそ、僕の心に寄せては返す高揚感と虚無感の由縁だろうと、今僕は思う。この死者に揺動される高揚感と虚無感とを抱えるには、僕の「愛」はまだ若すぎたのかもしれない。